<その9>でもやっぱり楽しい研修講師
わかっているのかいないのか、冗談言ってもあまりうけない。質問はといってもまったくなく、淡々と研修がすすんでいく。
やがて時間がきて閉講となる。ん〜、今日はイマイチだったなとスッキリしない気分でいると、受講者の一人が帰りしなに「先生どうもありがとうございました。すごく分かりやすかったし、ぜひ明日からの仕事に生かしたいと思います」とわざわざ言いに来てくれる。
なんだ〜、よかったのか!受講者はそう感じていたのかとホッとすることがある。どうしたら皆のやる気を引き出すことができるかと、常に気を遣いながら研修をすすめた身としては、重い肩の荷が降りた思いだ。この瞬間一日の疲れも一気に吹き飛ぶ。研修が盛り上がらず自分はやっぱりこの仕事は向いていないのではないか、と自信喪失に陥っているとき受講者からの一言によって救われる。こんなとき講師としてのやりがいを感じる。
もちろん講師の話に敏感に反応し、期待通りに笑ってくれたり、グループ討議なども活発に行われる研修は講師としてもやりやすいし、やっていて楽しいし楽でもある。受講者が熱心に頷き、一生懸命に取り組んでくれる研修は講師としてもやりがいがある。でもいつもそうなるとは限らない。生の人間を相手にする以上、同じ講義を行っても受講者の反応はさまざまである。
あまり盛り上がらなかった研修でも、自分なりに精一杯講師を務め、研修の最後に励ましと感謝の言葉を述べたとき、期せずして拍手が巻き起こる、誰が指示したわけでもないのに、自然発生的に拍手が起こる。うれしいものだ。あ〜、こんなに喜んでくれる人がいるんだ。よかったんだと講師冥利につきる。
担当者も満足して、満面の笑みで「先生本当にありがとうございました。ぜひ、来年もまたお願いします」と言われると、つい心の中で「やったー!」と叫んでしまう。いままでの苦労もなんのその。これがあるから研修講師はやめられない。
自分のような者でも先生と呼んでくれ、それなりの敬意を示してくれる。やればやっただけの収入を得ることもできる。講師という仕事は形のあるものを残すわけではないが、受講者の心の中にきっと何かを残すことができるはずだ。
私が駆け出しの頃、いろいろな研修講師の話を聞いた。その中に講義内容だけでなく人間的にもとても素晴らしい先生がいた。うわ〜、こんなすごい人もいるんだと正直感動した。そして自分もこのような先生になりたいと思い、本気で研修講師を続けていこうと思った。たった一人の研修講師との出会いが私の人生をも変えてしまった瞬間である。
本を読むことによっていろいろな知識は吸収できる。最新の理論や学説、ノウハウなどを得ることはできる。でも、書いている人の人間性までは伝わってこない。やはり生身の人間から伝わってくる嘘いつわりのない迫力。これに勝るものはない。
我々は宗教家や道徳家ではない。社会人にノウハウを教えるのが仕事である。でも受講者が感動するのは、そのノウハウが自分にとって役に立つと感じ、ほんとにこの講師の研修を受けてよかった、得したと感じるときである。
受講者の最後の晴れ晴れとした顔。そして名残惜しそうに帰路につく、その姿を見送りながら研修講師は自己の存在を改めて認識するのではないだろうか。
一般社団法人 人財開発支援協会では、食えるプロの研修講師を目指す方々へ「研修講師育成講座」を開講しています。あなたも研修腰の喜びを体験してみませんか。
次回は、いよいよ最終回、「自分を磨く」です。
© 2014 Toshiharu Amemiya |
執筆者:雨宮 利春
(一社)人財開発支援協会 代表理事
1977年 青山学院大学経済学部卒 商社にて営業本部マネージャー等を歴任後、1989年 経営コンサルタント・研修インストラクターとして独立。
現在 コミュニケーション、対人折衝、クレーム対応、プレゼンテーション、リーダーシップ゚等の 技術指導で組織の人材開発を支援、各種企業団体等の教育研修事業・講演・
コンサルティング、 執筆等で活躍中。
2010年 一般社団法人 人財開発支援協会を設立、代表理事に就任。「研修講師育成講座」を開催するなど、後進の育成にも尽力している。
中小企業大学講師、一級販売士、産業カウンセラー
主要著書:「あいさつ上手になる本」、「パソコンプレゼンテーション入門」、「顧客を動かす『話す』 技術『聞く』技術」、「絶妙な『断り方』の技術」
、「絶妙な『クレーム対応』の技術」 、「だから、あなたの会社の『クレーム対応』は失敗する」他多数
|