<その8>講義・研修の始め方
講演・研修は「最初の5分で勝負がつく」と言われています。人によっては、第一印象も含めて4秒という方もいます。半日、一日の講座では第一印象が最後まで尾を引きます。
また受講者は、当初あなたのことを値踏みしていますから、そこで受講者の心を掴み損ねればリカバーするのは大変です。
昔は、「アメリカ人の講演はジョークで始まり、韓国人の講演は自慢で始まり、日本人の講演は謙遜で始まる。」と言われたものです。今は、だいぶ変わりましたが、講演の始め方にも民族性があるということです。
日本人による日本人への講演・講義・研修を前提にお話しします。
まず、ジョークで始めるのは日本人には無理です。話し手も勿論ですが、聞き手もそういう素地を持っていません。スタートでいきなりすべる危険を考えたらやめておいた方が無難です。慣れない講師だと、ここで受けると思っていた話がすべると、主催者の目からも動揺しているのがわかることがあります。
講義中も含めて、笑いをとろうとは思わない方が無難です。受講者は、寄席やお笑い番組の公開録画に来ている人とは違うのです。彼ら、彼女らは笑いたくて来ています。だから、ちょっと背中を押せば爆笑してくれるのです。
勿論、研修、セミナー参加者は笑うために来ているのではありません。そういう人たちから笑いをとることは、プロの芸人でも難しいのです。ウケを狙ってすべったときの精神的動揺は講義に影響します。とくに関西系の講師の方はご注意ください。
最近、日本人でも自己紹介で自慢話をする人がいます。本人は自慢話と思っていないのでしょうが、有名大学卒であるとか、大手企業でこういうプロジェクトの責任者だったとか、経歴や実績を延々と述べる人がいます。まず、こういう人は自分の講義に自信がないので、何とか経歴でバックアップしようという意図が見え見えです。受講者に馬鹿にされたくないという思いでしょうが、帰って馬鹿にされています。開始から10分以内に本題に入らないと、受講者の苛立ちがつのります。
こうした自慢話をする人を私は「首から印籠をぶら下げた水戸黄門」と呼んでいます。水戸黄門は身分を隠し、相手を油断させて、最後に印籠を見せて悪を諫めて、見ている人の溜飲を下げさせるのです。最初から印籠を見せていたら話になりません。
あなたの研修講師としての能力を10としたら、能力が12あるように見せるよりも、8ぐらいに見せておいて、あとで感心させた方が効果的です。
勿論、内容は大切です。チャンバラの弱い水戸黄門ご一行では話になりませんから。
だからといって、あまり謙遜しすぎるのはよくありません。昔よくあった「私のような者がこのように高い席から皆様に講義をするのは・・・・」と、実力を謙遜するのは、前にも述べたように、あなたを講師に抜擢した主催者あるいは研修担当者の顔を潰しているようなものです。
では、どうしたらよいでしょうか?
やはり日本では、自慢や上から目線では反発を食らいます。ごくごく平常に始めるか、多少の謙遜は必要かもしれません。謙遜する場合は、本来のテーマについての知識・経験や研修能力以外の部分でしてください。
スタート時に限りませんが、自分の成功談を話すより、失敗談を話した方が、親近感がわきますし、実際お聴きになっている方の役に立つケースが多いと思います。
先日亡くなったアップル社スティーブ・ジョブズ元CEOのスタンフォード大学卒業式での伝説のスピーチでは、“自分は大学を出ていない”という話から入っています。いくら大学を出ていないといっても、その実績は名門大学卒業生でも足下にも及ばないことは明白です。
ジョークから入るといわれた米国でも、時と場合に応じてこういう入り方をするのです。
野田首相は自身を「ドジョウ」に喩えて紹介しました。これは自らの風貌のことで、首相としての能力を謙遜しているわけではありません。これで当初の支持率は多少アップしたのではないでしょうか。 もちろん総理大臣業は長丁場ですから、能力がなければ最初の掴みだけではすみませんが。
本来の自分の能力、実力とは関係ないところで、ちょっとマイナス面を紹介する自己紹介、そしてそれで聞いている人の注目を集める。これが一番うまい始め方だと思います。
くれぐれも、上から目線で話したり、自分の経歴のプラス面や実績を強調したり、教えてやるという態度で入ったりしないでください。そんなことで受講者はあなたのことを尊敬しません。むしろ敬遠されるということを知っておいていただきたいと思います。
研修やセミナーでうまいスタートから入れたら、一日二日の研修でしたら、成功する確率は高まります。 逆にそこで失敗したら、最後まで苦労します。
研修やセミナーも中身がなければ、何にもならないのは言うまでもありませんが、掴みの大切さも覚えておいてください。
一般社団法人 人財開発支援協会では、食えるプロの研修講師になりたい人のために「研修講師育成講座」を開講しています。ビデオを使った講義の実習指導も好評です。
次回は、「ワンランク上の研修講師を目指す」方へのアドバイスをお話しします。
© 2011 Ryuji Fukuda
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