<その4>講師料の決め方
講師の仕事を引き受けたときに「講演料は○○万円いただきます。」とは自分の口からなかなか言いづらいものです。また、先方から「○万円でお願いします。」と、こちらの通常の価格より安く提示されたとき、価格交渉で高く言うと仕事がもらえないおそれもあります。
講義・研修という無形のサービス業は、なかなかその価値を説明することが難しい商品です。まして、講師料に相場などありません。自分の価値、あるいは提供する講義・研修への対価は、自身で決めなければならないのです。
同じ講演、研修を二重価格、三重価格で行うことは好ましくありません。こちらの提示価格で仕事をさせてくれる方が上客で、値切る客は決して良い客ではありません。むやみに安値でも引き受けると言うことは、言い値で依頼してくれる上客に対する裏切り行為です。また狭い業界ですので、あの先生は安い価格でも引き受けるという情報が流れれば、必ずあなたの価値は最低値に収斂されていきます。
安く、数でこなすという考えもありますが、先に述べたように収入は最大でも時間単価×講演時間が限界ですので、単価を下げるのはおすすめできません。
もし、あなたが講演料を半日15万円、1日25万円と決めていたら、1日10万円というオファーは断らなくてはなりません。でも、たまたまその日に仕事がなく、遊んでいたも一銭にもならない、今月は仕事が少ないので10万円でも喉から手が出るほどほしい・・・といった場合、どうしますか?
リーズナブルな範囲で通常より安い価格で引き受ける場合は、必ず何か理由をつけましょう。「○○さんのご紹介だから」とか、「公共団体のお仕事ですから特別に」あるいは、「次回以降も定期的にお呼びいただけるのなら」などです。そして、もし見積書等を提出するのでしたら、定価を記して、“今回に限りの割引価格”とか“貴社値引き額”などと表示するのがよいでしょう。あくまで、私の講師としての価格は○○円ですと主張しておくことをおすすめします。
プログラムごとに価格を記したメニューを作っておくのも良いかもしれません。相対取引でその都度、依頼者とチキンレースを繰り広げるように価格の駆け引きをするというのは好ましくありません。
また、事前に講演料について一切ふれない主催者もいます。概してこういう団体、組織は講演料が安い場合が多いものです。終了後に振り込まれた金額を見て後悔しても遅いのです。必ず事前に確認しておきましょう。
当社の規定とか当団体の決まりとか言って、法外に安い価格を提示されたら、よほど他のメリットがなければ思い切って断りましょう。一度決めた価格を値上げするのは大変です。新人ならいざ知らず、他からも声をかけられるようになったらペイしない仕事は、受けない方がいいです。「武士は食わねど高楊枝」これができないと講演料を高くすることはできません。 謝礼の額によって講義内容を調節するといった器用なことができる人は、あまりいないと思いますが、安い仕事でもベストパフォーマンスを見せましょう。次回リピートされたとき、「あのときはお付き合いしましたが、今後はあの価格ではできませんよ」と言ってやるのがよいと思います。
ここで一つご注意申し上げたいことは、間に研修会社が入ったときの対応です。研修会社もビジネスですから、主催者と直に対応するより、折衝しやすいと思います。当然、研修会社はあなたへの謝礼に営業経費等を上乗せして派遣依頼主に請求しています。その場合でも講演会場にはあなたが一人で行く(研修会社の担当者は同行しないのが普通です。)ので、先方の研修担当者と親しくなることもあるでしょう。そのときに、次回はこの時期にこういった内容でと直接あなたに持ちかけてくることがあります。いちいち研修会社を通して打ち合わせするのはまどろっこしいし、支払額も研修会社の取り分だけ安くなることになり、一部あなたへの謝礼も増えるかもしれません。しかし、もしこういう話があっても、研修会社の紹介先とは直取引しないのが仁義です。必ず「○○社を通してください」と断ってください。直取引をすると以後その研修会社からは以後一切仕事は紹介されませんし、そういう評判が立てば他社からも声がかからなくなります。
1回目に述べたように人脈商売ですので、信頼を失うような行為は慎んでください。
最後にご存じのことと思いますが、個人の場合は、講演謝礼は源泉税が10%引かれます(1回100万円以上の部分は20%)。10万円の場合は1万円源泉税を引かれて、手取9万円になります。手取り10万円の場合は、11万1,111円が総額になります。源泉税は支払者側が納税し、明年1月頃までに前年の支払調書があなたに送られてきますので、これで翌年3月に確定申告をします。
滅多に講師を呼んだ経験のない企業等の場合、源泉徴収することを知らない担当者がいます。源泉処理をしてくれないと、源泉分あなたが損をすることになりますのでご注意ください。 また、源泉徴収は源泉徴収義務者しかできません。任意団体やグループ・サークル等の講演では源泉徴収してもらえないケースもあります。講演料はその分安くなってしまいます。
あなたが法人化している場合は、源泉税ではなく消費税を付加して請求することになります。個人・法人にかかわらず年商1,000万円以下の免税業者の場合でも、企業相手の場合は消費税を取らないと先方の経理処理が面倒ですし、支払い消費税として計上できませんので、消費税込みということで請求します。
一般社団法人 人財開発支援協会では、食えるプロの研修講師になりたい人のために「研修講師育成講座」を開講しています。修了後に認定講師として登録頂けると、講演のご紹介や各種ご相談にマンツーマンでお応えするフォローアップ制度も充実していますので、おすすめです。
次回は、「事前準備とプログラムの立て方」の話です。
© 2011 Ryuji Fukuda
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