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 プロの研修講師への道

<最終回>たかがアンケート、されどアンケート

 

私は、基本的にアンケートは信用しません。
だからといってアンケートは不要であるかと言えば、そうとも言えない部分もあります。一部の受講者の不満のガス抜きには有効でしょう。また好評なアンケートは講師への格好の勇気づけになりますし、不評は講師への発憤材料として使えます。

 

一番やっかいなのは、企業研修で担当者がアンケートを採って、講師評価に利用することがあることです。
そもそも少人数で、それも強制的に聞かされる社員の立場での意見ですので、たとえ本音であっても有意であるとは言い切れない場合もあります。
特に研修担当者が講義中に席を外して聴いておらず、アンケートだけに頼るという人もいるので困ります。

 

アンケートなど採らなくても後ろに座って聴いていれば、受講者に受けているか、興味を持って聴いているか否かは、多少の経験があれば一目瞭然です。
また、次はこういう話が聞きたいという意見も、無理矢理書いているケースや、思いつき、特殊な興味によるものが少なくないので、次回その通り開催しても人は集まるとは限りません。

 

後ろで聴いていると、興味を持って聴いているときには受講者は前屈みになります。そこまで見ていなくても、担当者も聴いていれば好・不評はすぐにわかるはずです。もちろん講師には真っ先にわかっていただけなければなりませんが。

 

もし、とくに受講者を選ばずに、誰でも受講できる無料セミナーのようなものでしたら、アンケートは好評の人から不評の人まで統計学的に正規分布に近づいて当然です。前項でもお話ししたように、セミナー、研修の善し悪しは受講者(のレベル)が決めるのです。多くの場合、不評の原因は講義と受講者のレベルのミスマッチということです。

 

高い受講料をとることによって本当に聴きたい方、大きな期待を持った一定以上のレベルの方だけを集めたセミナーや、社内研修でも仕事を休んでも聴きたいという希望者に限った研修であれば、不評の人数は大幅に減って当然です。もちろん、それに耐えられないレベルの講師の場合は論外ですが、そのような講師はアンケートを採らずとも聴いている主催者は既に気がついているはずです。

 

公開セミナーの場合は、参加者数が非常に多ければ同様に正規分布に近づきますが、あまり人が集まらなかった講座の方が、得てして好評なものです。少ない受講者が全員良かったと評価してくれることは嬉しいのですが、これは本当に役に立つと思っていただけた方しか集められなかったという営業力の無さの問題ではないかと、よく悩んだものです。

 

まあ、講師はアンケートで多少不満を言われても、あまり気にせずに、受講者のレベルとのミスマッチだった、あるいは主催者、研修担当者が悪いと思うくらいの厚顔さが必要でしょう。ただし、受講者のレベル、研修の目的など、いわゆる空気を読んで臨機応変に講義内容を変えられる技術に欠けていたことについてはプロの講師として反省、努力が求められることはいうまでもありません。

 

最後に、私のアンケートにまつわる経験談を一つご紹介させてください。

今から30年ほど前、私も独立したてでどんな分野でもセミナーをやろうと、産科の開業医、助産師さんを対象に最新周産期医学の研修を主催していました。
あまり、その分野のセミナーがない頃で、参加者もセミナーずれしておらず、熱心な方々ばかりでした。ですからアンケートも熱心に書いてくださり、終了後、開放感とともに一杯飲みながらそれを読ませていただくのが楽しみでした。

 

その中に一通、私の目にとまったアンケートがありました。「今日のお話をあと1ヵ月早く聴いていたら、この間の赤ちゃんは死なずにすんだかもしれない。残念です。でも今日のお話を伺って、二度とこのようなことが起こらないようにがんばっていきます。有り難うございました。」

私も感動して涙がこぼれ、泣きながら一人で酒を飲んでいたことを昨日のように覚えています。
たぶん、これがその後30年以上もセミナー、研修の企画、運営に携わり続けてきた原点だったのかもしれません。

 

聴いた人の心を打ち、その人の考え、行動、人生に影響を与えることができるセミナー講師、研修インストラクターという仕事は素晴らしいものです。どうぞやりがいと誇りを持って頑張っていただきたいと思います。

 

まだまだお話ししたいことは山ほどありますが、長らくおつきあいいただきました「プロの研修講師への道」もひとまず終わらせていただきます。ご愛読有難うございました。続きは「研修講師育成講座」、公開講座等の機会にお伝えしたいと思っております。

 

セミナー、研修はまだまだニッチな世界ですが、これから講師、インストラクターをめざす方々が、何か一つでもお役に立つことを見つけられ、それぞれ個性を持って活躍されることを願ってやみません。

 


© 2011 Ryuji Fukuda


 


執筆者:福田 隆二

 

セミナー主催会社を30年余り経営。 現在、CS研究フォーラム自動車産業研究フォーラムを自ら主宰するとともに、 東京大学大学院経済研究科 経営教育研究センター特任研究員として「ものづくり寄席」などを開催、東京大学グローバルCOEプログラムものづくり経営研究センターで「ものづくりインストラクター養成スクール」、法政大学ビジネススクール企業家養成コース「ワークショップ事務局」コーディネーター等も歴任。企業法務・コンプライアンスの研究会「ビジネス法務アカデミー」企画担当など研修・知的イベントのプロデューサー、コーディネーターとして幅広く活躍中。

35年を超える研修主催者としての経験による独自の視点から、目から鱗の情報を「研修講師育成講座」で提供している。

 


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