<その6>テキスト、パワーポイントスライドの作り方、見せ方
前回、パワーポイントスライドをテキストにして配付資料にするなと申し上げました。基本的にパワーポイントは見せるもの、テキストは講義に使うもの、配付資料は読ませるものですから、全く用途が違います。
もし、素晴らしいパワーポイントスライドを作ったとしたら、それはテキストとしては相応しくないものになっているはずです。また、スライドがプリントアウトしてテキストとして使用できたとしたら、パワーポイントとしては文字が小さすぎたり、ゴテゴテと説明が書かれていたり、見せるスライドとしては失格です。
このように、テキストとパワーポイントスライドはトレードオフの関係にあると言えるでしょう。
そして、パワーポイントに詳しく説明を書いてしまうから、受講者に背を向けて、スクリーン相手に講義してしまうのです。
スライドをテキストにして配布するから、受講者はスクリーンを見ずに、テキストだけを見て、誰もあなたの方を向いてくれないのです。
講師も受講者も目を合わせない、こんな惨めなセミナーに参加したことはありませんか?
ですから、テキストとパワーポイントスライドは別々に作るものなのです。
もちろん、仲間内の研究会や、たまたま講義を頼まれた素人の方でしたら、そこまでは要求しませんが、パワーポイントスライドを配付資料としてテキストに使うということは、プロの研修講師のやることではありません。 テキストと同じスライドを使うくらいでしたら、パワーポイントを使わずにテキストだけで講義するというのも立派な選択肢です。
テキストは講義の順に沿って、詳しい説明文、参考資料や図表、フローチャートも入れてワード等で作りましょう。
本文の文字サイズは、小さくても10.5ポイント、できれば12ポイントぐらいで、項目は箇条書きにするとわかりやすいです。大項目、中項目、小項目のタイトルは、文字の大きさを変えるなり、ゴジックにするなど工夫し、大項目はT、U、V、中項目は1,2,3、小項目は(1)、(2)、(3)等と分けて、レイヤーがわかりやすくする必要があります。
フォント、文字の大きさ、書式は統一をとりましょう。以前使用したものからコピーアンドペーストで流用するときはとくに要注意です。また、英数フォントの統一にも気をつけてください。
著作権にも注意を払う必要があります。他人の著作物からの引用は著作権侵害になる恐れがあります。新聞、雑誌の図表をコピーして貼り付けるのはNGです。印刷して配布するのですから、著作権侵害の動かぬ証拠となってしまいます。今はどの企業もコンプライアンスを重視していますので、自身の著作権侵害のみならず、研修依頼先企業、あるいは主催者にも迷惑をかけることになります。
また、自分の著作権保護にも関心を持ってください。PPスライドやテキストの各ページにコピーライトのクレジットを入れたり、安易にマスターを渡したりしないように心がけてください。どうしても渡さなくてはならないときには、PDFにして渡しましょう。自分の著作権に無頓着な人は、他人の著作権にも注意を払わないものです。
パワーポイントのスライドは見せるものですから、きれいに、見やすく大きなフォントで必要最小限の文字数に絞って作ります。説明はテキストに書けばよいのです。
フォント(文字の大きさと字体)は、会場の広さ、受講者の層に合わせて考えましょう。テキストをそのままスライドにしないことはご理解頂けたと思います。
表はグラフにするなり、文章はフローチャートにするなど工夫してください。テーマによっては、図やイラスト、写真なども効果的です。
アニメーションは必要以上に多用すると効果が薄れます。効果的な使い方を研究してみてください。
色は、出力する液晶プロジェクターによって大きく左右されます。必ず事前チェックが必要です。一つだけ申し上げておくと、赤色系は沈んだ色になる機種があります。間違っても確認せずに、強調する箇所を赤文字にしないように。
テキスト、スライドいずれも、誤字、脱字、数字の間違いなどは講義内容の信憑性にも影響を与えますので、事前に十分校正しなければならないことは言うまでもありません。
そして、パワーポイントはスマートに見せましょう。
前のスライドに戻るとき、矢印キーで1枚ずつ戻すのは情けない姿です。アニメーションがついているページなど1行ずつ消えていき、いつまでたっても目的のページにたどりつかない惨めな事例を屡々目にします。これでは、どんによい講義をしてもぶち壊しになる、ということにすら気がつかない講師がいるので悲しくなります。また、次のスライドが何か忘れてしまい、次に移り、慌てて元のスライドに戻すのも悲しいものです。スライドを話に関係なくチョコチョコ動かすのは、受講者の興味を削ぐと同時に、講師が素人であるとの印象を与えます。
こうしたことを避けるためにも、スライド一覧をプリントアウトしておき、スライド番号を赤で大きく書いて、手元に置いておくことをおすすめします。
スライド番号の数字を入力し、エンターキーを押せば目的のページに飛ぶことをご存じない講師が、非常に多いのでびっくりしました。
ついでに、見せるためのショートカットキーもマスターしてください。
スタートは、shift+F5 でスマートに始めましょう。画面は“W”でホワイトアウト、“B”でブラックアウト、いずれも、もう1回何かキーを押せば戻ります。いちいち液晶プロジェクターのふたを閉めに行かないでください。また、映しているスライドと違うことを話すときに、いつまでも話と関係のない前のスライドを映しっぱなしにしないで済みます。
スライドショーの終了は、Esc、Ctrl + Break、または - (ハイフン)ですが、BやWで終わるのもかっこいいですよ。 質問があったときもすぐ目的のページに飛んでいけますし。
現在は、ポインターに前進、後退ボタンのついているものがグリーンライトでも1万円前後から買えます。こんな小道具もあなたをPCのそばから解き放し、スマートに見せることができます。大会場で大人数を相手にするときは、赤色ポインターでなく、より見やすい緑色ポインターを使うことをおすすめします。
こうしたことで、スマートにパワーポイントを見せると、講師への信頼度が高まるものです。
たどたどしい見せ方は、たどたどしいしゃべり方をしているのと同じだと思ってください。講義内容や話し方を磨くことは大切ですが、スライドの見せ方も同様、いやそれ以上に受講者に与える影響は大きいものです。人は耳で聴いたことより、目で見たものの影響を大きく受けるからです。
どうぞ、パワーポイントの使い方に自信がないのでしたら、使わずにテキストだけで講義することも考えてください。パワーポイントは、あなたの講義のアウトラインを作るものではないのです。
どうしても使いたかったら、パワーポイントを研究してください。講義内容をブラッシュアップしたり、話し方を練習してうまくなるより、パワーポイントのスキルアップの方が遙かに簡単でしょう?
テキストやスライドの作り方、見せ方については、プロの研修講師になるためにはまだまだお伝えしたいことがたくさんありますが、とてもコラムでは書ききれません。より詳しいことは、一般社団法人 人財開発支援協会の「研修講師育成講座」お教えしています。
次回は、「話のネタを拾う」というテーマでお話しします。
© 2011 Ryuji Fukuda
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